東京天文台設置記念日はどこからきたの?
この記事では、11月24日は「東京天文台設置記念日」と言われているけど、年とか場所とかおかしくない? この由来って何? ということを調べまとめたものです。その後、国立天文台内で別の情報をみつけたので10月29日は東京天文台記念日 - 見上げれば、空を書いています。
東京天文台設置記念日
東京天文台設置記念日(日本)
1921年11月24日に、東京都麻布区板倉*1(現港区麻布台)に東京天文台(現 国立天文台)が設置された。
wikipedia:11月24日より引用
Wikipedia などに拠ると、11月24日は「東京天文台設置記念日」だそうですが、歴史 | 国立天文台(NAOJ)やwikipedia:国立天文台をみても、東京天文台の設立は1888年であり、1921年にそれらしい出来事は書かれていません。当時、移転計画が進められており、その移転先である三鷹に本館と第一赤道儀室が完成した年が1921年だそうです。確かに三鷹は国立天文台(旧東京天文台)の本部機能をもつキャンパスではありますが、これをもって「東京天文台の設置」というには無理筋ですし、それならば設置場所は三鷹と書かねばなりません。
そこで国立天文台ミュージアム検討室のアーカイブ新聞などの記載をもとに、東京天文台の歴史をまとめてみました。
東京天文台の歴史
- 1870年
- 東京大学(当時:大学南校)に、学生の練習用の天文台設置(神田一ツ橋)
- 1874年
- 海軍省観象台設置(麻布飯倉)
- 1877年
- 東京開成学校(元大学南校)と東京医学校が合併し東京大学創設
- 1878年
- 東京大学観象台設置(本郷)
- 1888年6月1日
- 東京大学観象台・海軍省観象台・内務省天象部が統合し東京天文台発足(麻布飯倉)
- 1888年6月4日付官報
- 文部省告示第2号「東京府下麻布区飯倉町に東京天文台を置き東京帝国大学に属せしむ」
- 1909年
- 移転先として三鷹の土地を購入
- 1914年
- 三鷹で工事を開始
- 1921年
- 三鷹本館・第一赤道儀室完成
- 1921年11月24日付官報
- 勅令450号『東京天文台官制』制定
- 1923年
- 関東大震災
- 1924年
- 震災を契機に本格的に三鷹に移転
- 1953年
- 郵政省告示第1442号「東京天文台創立75周年を記念した特殊通信日付印(消印)を使用」
- 1978年
- 東京天文台創立100周年記念式典の開催
- 1988年
- 東京天文台・緯度観測所・名古屋大学空電研究所と統合し国立天文台が設立
参考
まとめ
まず、東京大学・海軍省・内務省内の三機関が統合され、組織としての“東京天文台”が設立されたのは1888年のことです。
一方で、東京天文台は1953年に75周年、1978年に100周年を記念した事業を実施していることから、東京天文台の関係者にとって、設立年とは東京大学に観象台が設置された1878年のことであり、組織として設立とされている1888年ではないということがわかります。東京天文台は東京大学の付属機関でしたので、東京大学の観象台設置をスタートとみなすことは特段不思議なことでもないでしょう。
東京大学付属天文台としての東京天文台の設立(1878年)、組織“東京天文台”としての設立(1888年)。このどちらでも「設置」記念日として妥当な出来事だと思います。しかしながら、実際に出回っている記念日は1921年に由来しています。このため、この記念日の制定は無関係の人が言い出したことではないかと思われます。
では、本題の1921年11月24日に何が行われたかというと、官報第2794号にて勅令450号『東京天文台官制』が掲載された日のようです。勅令には11月22日の日付で署名されていますが、公布日は官報掲載日ですので、附則により施行日も11月24日になると思われます。
第1条 東京帝国大学に東京天文台を附置す
第2条 東京天文台は天文学に関する事項を攻究し天象観測、暦書編製、時の測定、報時及時計の検定に関する事務を掌る
(略)
附則
本令は公布の日より之を施行す
というわけで、記念日はこれをもって「設置」と言っているようです。
既に30年以上前に文部省告示として設立は明文化されており、なぜこのタイミングで再び勅令がなされているのか疑問に感じますが、この頃は大学等の教育関係の改革が起きていたようなので、もしかしたらその一環の勅令なのかもしれません。これそのものは重要な出来事です。しかしながら、「設置」とするには不適切でしょう。
ともあれ、記念日の説明で記述されている
という文章は、官制制定という注釈もなく、ただ「設置」とあるのみで、不正確な表現であることに違いはありません。(しかも地名も間違えているし)
*1:飯倉のことだと思われる