復活祭、四旬節、謝肉祭
リオのカーニバルの時期だそうで。
キリスト教の復活祭(イースター)、四旬節、謝肉祭(カーニバル)についてまとめました。
西方教会系の行事
復活祭(イースター)
復活祭は「春分以降の満月の次の日曜日」に行われる移動祝日です。キリスト教の教会暦では春分の日は3月21日に固定され、また満月の日も天文学とは関係のない計算で出されます。
詳しい計算方法に関しては後述します。
例として2013年をみてみます。教会暦における春分以降の満月の日は3月27日、その次の日曜は3月31日となるため、復活祭は3月31日に執り行われます。ちなみに天文学的には春分は3月20日20時、満月は3月27日18時半(ともに日本時間)です。
四旬節
四旬節とは復活祭の四旬(日曜を除いた40日)前の水曜日(灰の水曜日)から復活祭前日までのことで、神に祈り、食事制限等によって自身を節制し、他人に慈善を行う期間です。
2013年の復活祭は3月31日のため、四旬節の期間は2月13日から3月30日まで(日曜を除く)となります。
謝肉祭(カーニバル)
四旬節の直前の行事で、来たる四旬節に肉や卵などの食事制限を行うことから、その直前に carne vale (肉よさらば)と大騒ぎします。期間は地域によって様々で、リオデジャネイロでは4日間でヴェネツィアでは11日間です。
リオデジャネイロで行われる「リオのカーニバル」は土曜から翌火曜までの4日間の行事で、日曜と月曜の夜に特に盛り上がります。これは教会暦では日没を日の区切りとするため月曜と火曜の夜に相当し、水曜からの四旬節を前にしたクライマックスにあたるためと思われます。
リオデジャネイロやトリニダード・トバゴなど中南米のイメージが強いカーニバルですが、上記の通りキリスト教に関するお祭りであるため欧米諸国でも行われています。なかでもイタリアのヴェネツィアやアメリカのニューオーリンズなどが有名です。wikipedia:謝肉祭 には各地のカーニバルの写真が載っています。
また、カナダやイギリスなどでは四旬節に入る前日の火曜日(謝肉祭の最終日で2013年では2月12日)には卵や乳製品を消費するため、パンケーキを食べる日とされています。
西方教会系の日程計算
コンプトゥス
コンプトゥスとは計算を意味するラテン語です。中世における最も重要な計算が復活祭の日付に関するものでした。そのため現在では単にコンプトゥスと言うと復活祭の日付計算を意味する単語になっています。
エパクト
天文学上は1太陽年は365.2422日であり1朔望月は平均29.5306日ですが、コンプトゥスでは1太陽年を365日、1太陰年を354日(1ヶ月を29.5日)とし、1年につき差(エパクト)が11日ずつ広がるとしています。そしてエパクトが30日以上になると30日の閏月を太陰年に挿入したとみなして、エパクトから30を引きます。つまり 0, 11, 22, 3, 14, 25, 6, ... となります。
ここで19太陽年は235朔望月(19純粋太陰年+7閏月)とほぼ等しいというメトン周期が古くから知られています。
ですが上記の1年につき11日の差を増やす方法では19年で209日(エパクトは29)となり完全に循環しないことになります。そこで19年目に太陰年を1日少なくすることでエパクトを1日増やす処理を行います。考え方としては挿入する閏月のうち、30日のものを6ヶ月、29日のものを1ヶ月とします。
GN | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エパクト | 29 | 10 | 21 | 2 | 13 | 24 | 5 | 16 | 27 | 8 | 19 | 0 | 11 | 22 | 3 | 14 | 25 | 6 | 17 |
西方教会系のエパクト値(1900年〜2199年)
各年のエパクトの値は上表の通りに19年周期で繰り返しています。この周期の最後の17から最初の29へ移る際に12増えていることが見て取れます。
なお 西暦 mod 19 + 1 で求めた数がメトン周期の何年目かを表しており、黄金数(Golden Number)とも言うそうです。今年は 2013 mod 19 + 1 = 19 であるため、 GN = 19 となり対応するエパクトは17です。
新月と満月
その年のエパクトの値がわかると、カレンダリウムという帳簿により教会暦上の新月の日を求めることができます(カレンダリウムそのものについてはwikipedia:コンプトゥスをみてください)。そして新月から数えで14日目(すなわち13日後)を教会暦上の満月の日としています。
以下にエパクト値とその年における教会暦上の新月・満月の関係を示します。実際は19パターンのみを抽出し、使い回すことができます。
Ep | 新月 | 満月 | Ep | 新月 | 満月 | Ep | 新月 | 満月 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 03/31 | 04/13 | 10 | 03/21 | 04/03 | 20 | 03/11 | 03/24 | ||
1 | 03/30 | 04/12 | 11 | 03/20 | 04/02 | 21 | 03/10 | 03/23 | ||
2 | 03/29 | 04/11 | 12 | 03/19 | 04/01 | 22 | 03/09 | 03/22 | ||
3 | 03/28 | 04/10 | 13 | 03/18 | 03/31 | 23 | 03/08 | 03/21 | ||
4 | 03/27 | 04/09 | 14 | 03/17 | 03/30 | 24 | 04/05 | 04/18 | ||
5 | 03/26 | 04/08 | 15 | 03/16 | 03/29 | 25 | ||||
6 | 03/25 | 04/07 | 16 | 03/15 | 03/28 | 26 | 04/04 | 04/17 | ||
7 | 03/24 | 04/06 | 17 | 03/14 | 03/27 | 27 | 04/03 | 04/16 | ||
8 | 03/23 | 04/05 | 18 | 03/13 | 03/26 | 28 | 04/02 | 04/15 | ||
9 | 03/22 | 04/04 | 19 | 03/12 | 03/25 | 29 | 04/01 | 04/14 |
Ep | 新月 | 満月 | 条件 |
---|---|---|---|
25 | 04/05 | 04/18 | GN <= 11 |
25 | 04/04 | 04/17 | GN > 11 |
2013年のエパクトは17です。エパクトが17の年は教会暦上の新月は3月14日で、満月は3月27日となります。
エパクトが25の日は少し特殊です。2ヶ月(2×29.5=59日)は朔望が2周する期間ですので、エパクトもきっちり2周させる必要があります。そのため小の月(1ヶ月が29日間の月)のエパクト25の日を他の日とダブらせます。メトン周期の1〜11年目のときは24と25を同じ日に、そして12年目以上のときは25と26を同じ日に割り当てます。時期によって変化させる理由は(現在の周期で言うところの)6年目と17年目が同じ日にならないようにするためです。
こうして得られた満月の日の次の日曜(満月の日が日曜ならその翌週)が復活祭です。
長期的なエパクトの補正
コンプトゥスにおけるメトン周期は19太陽年(19×365)=19太陰年(19×354)+7閏月(6×30+1×29)=6935日として19年で一巡するとしています。実際の暦に生じる閏日の存在などは無視して、19年における整合性のみをみているといってもよいでしょう。
対して、天文学的なメトン周期は19太陽年(19×365.2422)=6939.60日、235朔望月(235×29.5306)=6939.69日であり、ほぼ19太陽年=235朔望月となっています。
実際の暦は(短期的には)4年に1年のペースで閏年がありますので、1年=365.250日です。ですので19年は6939.75日となります。235朔望月(6939.69日)との差は0.00324132日/年となります。これは308.517年で1日の誤差に相当します。
この誤差を解消するために、1800年、2100年、2400年、2700年、3000年、3300年、3600年、3900年、4300年……と300年間隔で7回と400年間隔で1回という2500年8回を一巡としたサイクルで1日分ずつエパクトを加える(誤差が蓄積して太陽年が1日多くなる)処理を行います。2500年で8日分ですので、均すと312.5年に1日のペースとなります。(太陰方程式)
一方で、現在使われている暦を厳密に見ていくと400年に97日の閏日を挿入するものです。普段は4年に一回のペースで閏年が訪れますが、1800年、1900年、2100年、2200年、2300年、2500年……と100で割り切れるけれど400で割り切れない年を平年(閏年でない年)としています。
つまりそのタイミングで4年に一度という閏年の出現パターンが崩れ、閏日が挿入されない年になります。そのためこれらの年には1日分エパクトを減ずる(太陽年が1日少ない)処理を行います。(太陽方程式)
まとめると、1900年のタイミングで1日マイナス、2000年で増減なし、2100年にプラス1マイナス1の増減なし、2200年に1日マイナス……となるため、現在の使うことのできるメトン周期のエパクト値表は1900年から2199年まで使うことができます。遠い未来ですが、2200年になる際には1日分だけ減らす必要があり、それに伴って新月満月の日付パターンも変化します。
東方教会系の行事
東方教会も同様に復活祭を祝います。東方教会のなかでも特に正教会はイースターではなくパスハ(復活大祭)と呼ぶことが多いそうです。
復活大祭の前の1週間を受難週。受難週の前の6週間を大斎と呼び、食事の節制等を行います。これらはやや期間が異なりますが四旬節に対応します。
西方教会系のカーニバルのように大騒ぎする行事はないようです。
東方教会系の日程計算
基本的には西方教会系と同様です。
復活祭が「春分以降の満月の次の日曜日」であり「春分は3月21日」と決められたのは325年の第1ニカイア公会議です。このころはユリウス暦が使われていました。
ユリウス暦は約128年で1日ずつずれていき、16世紀には天文学上の春分と教会が定める春分(3月21日)は10日近くの差が生じていました。西方教会ではそのずれを修正した新しい暦(グレゴリオ暦)に改暦し、日付計算に新暦を用いることにしました。
一方で東方教会はユリウス暦上の3月21日を厳守しました。その結果、現在における春分はグレゴリオ暦の4月3日となります。そのため、「春分以降の満月の次の日曜日」はグレゴリオ暦の4月から5月の期間に生じます。
コンプトゥス
東方教会におけるコンプトゥスですが、ユリウス暦を用いるため閏年は常に4年に一度です。そのため太陽方程式の補正を行う必要はありません。では太陰方程式の補正を行うかといえば、こちらも行いません。当然、長い目で見るとずれがでてきます(308.5年で1日のペース)。
補正をまったく行わないため、東方教会系の年ごとのエパクト値の表は一種類しか存在しません。ちなみにこれは-200年(紀元前201年)から99年までの西方教会系の表と同一です。
GN | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エパクト | 8 | 19 | 0 | 11 | 22 | 3 | 14 | 25 | 6 | 17 | 28 | 9 | 20 | 1 | 12 | 23 | 4 | 15 | 26 |
東方教会系のエパクト値(万年)
アルゴリズム
西方教会系のイースターは Butcher の、東方教会系のパスハは Meeus のアルゴリズムなどが既に存在し、すべての年において例外なく求めることができます。アルゴリズムについてはwikipedia:コンプトゥスに載っています。
まとめ
最後に一覧表を。
西方教会系の満月表
GN | Ep | 満月 | GN | Ep | 満月 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 29 | 04/14 | 11 | 19 | 03/25 | |
2 | 10 | 04/03 | 12 | 0 | 04/13 | |
3 | 21 | 03/23 | 13 | 11 | 04/02 | |
4 | 2 | 04/11 | 14 | 22 | 03/22 | |
5 | 13 | 03/31 | 15 | 3 | 04/10 | |
6 | 24 | 04/18 | 16 | 14 | 03/30 | |
7 | 5 | 04/08 | 17 | 25 | 04/17 | |
8 | 16 | 03/28 | 18 | 6 | 04/07 | |
9 | 27 | 04/16 | 19 | 17 | 03/27 | |
10 | 8 | 04/05 |
黄金数とエパクトおよび春分後の満月の関係(1900年〜2199年)
東方教会系の満月表
GN | Ep | 満月(J) | 満月(G) | GN | Ep | 満月(J) | 満月(G) | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 8 | 04/05 | 04/18 | 11 | 28 | 04/15 | 04/28 | |
2 | 19 | 03/25 | 04/07 | 12 | 9 | 04/04 | 04/17 | |
3 | 0 | 04/13 | 04/26 | 13 | 20 | 03/24 | 04/06 | |
4 | 11 | 04/02 | 04/15 | 14 | 1 | 04/12 | 04/25 | |
5 | 22 | 03/22 | 04/04 | 15 | 12 | 04/01 | 04/14 | |
6 | 3 | 04/10 | 04/23 | 16 | 23 | 03/21 | 04/03 | |
7 | 14 | 03/30 | 04/12 | 17 | 4 | 04/09 | 04/22 | |
8 | 25 | 04/18 | 05/01 | 18 | 15 | 03/29 | 04/11 | |
9 | 6 | 04/07 | 04/20 | 19 | 26 | 04/17 | 04/30 | |
10 | 17 | 03/27 | 04/09 |
黄金数とエパクトおよび春分後の満月の関係。 J はユリウス暦、 G はグレゴリオ暦(ユリウス暦は万年、換算したグレゴリオ暦は1900年〜2099年)
西方教会系の日程表
年 | GN | Ep | 満月 | 謝肉祭 | 四旬節 | 復活祭 |
---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 16 | 14 | 03/30 | 〜02/16 | 02/17〜04/03 | 04/04 |
2011 | 17 | 25 | 04/17 | 〜03/08 | 03/09〜04/23 | 04/24 |
2012 | 18 | 6 | 04/07 | 〜02/21 | 02/22〜04/07 | 04/08 |
2013 | 19 | 17 | 03/27 | 〜02/12 | 02/13〜03/30 | 03/31 |
2014 | 1 | 29 | 04/14 | 〜03/04 | 03/05〜04/19 | 04/20 |
2015 | 2 | 10 | 04/03 | 〜02/17 | 02/18〜04/04 | 04/05 |
2016 | 3 | 21 | 03/23 | 〜02/09 | 02/10〜03/26 | 03/27 |
2017 | 4 | 2 | 04/11 | 〜02/28 | 03/01〜04/15 | 04/16 |
2018 | 5 | 13 | 03/31 | 〜02/13 | 02/14〜03/31 | 04/01 |
2019 | 6 | 24 | 04/18 | 〜03/05 | 03/06〜04/20 | 04/21 |
2020 | 7 | 5 | 04/08 | 〜02/25 | 02/26〜04/11 | 04/12 |
近年の満月と復活祭、四旬節、謝肉祭の日程
東方教会系の日程表
年 | GN | Ep | 満月 | 大斎 | 受難週 | 復活大祭 |
---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 16 | 23 | 03/21 | 02/01〜03/14 | 03/15〜03/21 | 03/22 |
2011 | 17 | 4 | 04/09 | 02/21〜04/03 | 04/04〜04/10 | 04/11 |
2012 | 18 | 15 | 03/29 | 02/13〜03/25 | 03/26〜04/01 | 04/02 |
2013 | 19 | 26 | 04/17 | 03/04〜04/14 | 04/15〜04/21 | 04/22 |
2014 | 1 | 8 | 04/05 | 02/17〜03/30 | 03/31〜04/06 | 04/07 |
2015 | 2 | 19 | 03/25 | 02/09〜03/22 | 03/23〜03/29 | 03/30 |
2016 | 3 | 0 | 04/13 | 02/29〜04/10 | 04/11〜04/17 | 04/18 |
2017 | 4 | 11 | 04/02 | 02/13〜03/26 | 03/27〜04/02 | 04/03 |
2018 | 5 | 22 | 03/22 | 02/05〜03/18 | 03/19〜03/25 | 03/26 |
2019 | 6 | 3 | 04/10 | 02/25〜04/07 | 04/08〜04/14 | 04/15 |
2020 | 7 | 14 | 03/30 | 02/17〜03/29 | 03/30〜04/05 | 04/06 |
年 | GN | Ep | 満月 | 大斎 | 受難週 | 復活大祭 |
---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 16 | 23 | 04/03 | 02/14〜03/27 | 03/28〜04/03 | 04/04 |
2011 | 17 | 4 | 04/22 | 03/06〜04/16 | 04/17〜04/23 | 04/24 |
2012 | 18 | 15 | 04/11 | 02/26〜04/07 | 04/08〜04/14 | 04/15 |
2013 | 19 | 26 | 04/30 | 03/17〜04/27 | 04/28〜05/04 | 05/05 |
2014 | 1 | 8 | 04/18 | 03/02〜04/12 | 04/13〜04/19 | 04/20 |
2015 | 2 | 19 | 04/07 | 02/22〜04/04 | 04/05〜04/11 | 04/12 |
2016 | 3 | 0 | 04/26 | 03/13〜04/23 | 04/24〜04/30 | 05/01 |
2017 | 4 | 11 | 04/15 | 02/26〜04/08 | 04/09〜04/15 | 04/16 |
2018 | 5 | 22 | 04/04 | 02/18〜03/31 | 04/01〜04/07 | 04/08 |
2019 | 6 | 3 | 04/23 | 03/10〜04/20 | 04/21〜04/27 | 04/28 |
2020 | 7 | 14 | 04/12 | 03/01〜04/11 | 04/12〜04/18 | 04/19 |