アニメ「氷菓」と原作との違い
この記事は原作『氷菓』の範囲である、TVアニメ「氷菓」の5話までを対象とし、放映後にまとめたものです。DVD/BDで修正されているかまではチェックできていません。
主に設定レベルで異なるものを抜粋。また日付など原作では明記されていないものも類推による記述を行っています。〈氷菓〉事件を扱ったアニメ5話までを対象とし、6話以降何か書くことがあれば別記事に書きます。
アニメが放映された範囲のものは、ネタバレの範疇にあるものも記述していきます。
原作の時系列については《古典部》シリーズ時系列まとめにまとめてます。
なお、表記についてですが、『氷菓』は角川で刊行されている米澤穂信さんの作品。「氷菓」はアニメ作品。〈氷菓〉は作中の文集を指すこととします。
1話 Aパート
『氷菓』2章
原作
- 2000年
- 入部届けを朝に提出し、放課後に半紙(控え?)を里志に見せた
- あらかじめ鍵を借りておく
- 用務員に部室の場所を訊き“地学講義室”と教えられる
アニメ
- 放課後に入部届けを里志に見せた
- 地学講義室の隣にある“地学準備室”の鍵を借りる
- 校務員と話すことなく地学準備室に向かう
- 地学準備室の4月カレンダーは日曜日始まり
- (部長を決める前から)えるに入部届けと思われる用紙を渡す
2話
『氷菓』3章から4章の告白シーンまで
共通項
- 『神山高校五十年の歩み』
- 体育は雨で潰れた
原作
- 古典部が復活して1ヶ月(なので5月上中旬ごろ)
- 小雨が降り、雨宿りがてら部室で本を読む
- 文集は30年以上の伝統
- 行き先は“美術準備室”
- えるから喫茶店に呼び出されたのはある日曜(なので5月中下旬ごろ)
アニメ
- 目覚まし時計に5月18日(金)
- 放課後は晴れている
- 地学準備室の5月カレンダーは火曜日始まり
- 文集は40年以上の伝統
- 4月20日、4月27日、5月4日、5月11日、5月18日の各金曜に本が貸し出された
- 4月20日は12:21に借り15:40に返却(以下4週省略)
- 昼休みは12:00〜12:45で授業終了は15:20〜
- 行き先は“美術室”
- えるから喫茶店に呼び出された日は5月20日
4話
『氷菓』6章
共通項
- 検討会の内容は基本的にそのまま
原作
アニメ
- 45年前の伯父、45年後の後輩
- えるは最初渋ったが、里志と摩耶花にも助力を仰ぐことを決めた
- 中間試験明け
- 里志と街中で待ち合わせ
- 紫陽花が咲いている
- える「摩耶花さん」
- 『団結と祝砲』1号の発行は44年前
- 途中から雨が降りだす
- 奉太郎は放棄しようとするが、えるの部屋で彼女の想いを知り本腰をあげる
5話
『氷菓』7章と8章
共通項
- 謎解きに参加したのは灰色に飽き、薔薇色羨ましかったからか
原作
- 橙色に広がる田園の中帰る
- 翌日、私服で学校へ行き、いくつか確認した
- 電話で3人を呼び出した
- 郡山養子は33年前に高1で現在48か9歳
- 夏休みの図書室はカンヤ祭の準備や受験生でいっぱい
- 司書室で奉太郎の推測を聞く
- 格技場以外の校舎の建て替えは10年前
- 文化祭目前、原稿が仕上がらない里志の横で手紙を書く
- えるはお墓参りに行くためいない
- しかし、どうしても気になることがあり戻ってくる
アニメ
- 雨が降る、青々とした田園の中帰る
- その夜、電話がかかってきたとき、6/24 SUN 20:18
- 学校があり、その放課後、える「昨日はありがとうございました」
- 郡山養子は45年前に高1で現在60か61
- 人の少ない図書室で奉太郎の推測を聞く
- 摩耶花は仕事を手伝い、背伸びしてかわいい
- 司書室へ場所を移す
- 事件後何年か経って、なし崩し的に文化祭は3日間に縮小
- 格技場以外の校舎の建て替えは20年前
- 古典部で「カンヤ祭」を禁句にした
- (回想で)伯父さんが持っていたのは〈氷菓〉の2号?
- 後日(カレンダーは6月のまま)
- 摩耶花が台割を作り、担当を決める
- 帰り際、えるに里志や摩耶花に協力を仰いだ理由を訊く
- 姉貴への近況報告の手紙を自宅で書く
考察およびアニメの感想
時系列
まず結果から。詳しくは後述。
事柄 | 原作 | アニメ |
---|---|---|
現在 | 2000年 | 2012年 |
伯父が在籍 | 1967年(33年前) | 1967年(45年前) |
古典部復活 | 音楽の授業が1回あったあと(4月上中旬頃) | 同左 |
愛なき愛読書 | 古典部復活から1ヶ月(5月上中旬頃) | 5月18日(金) |
喫茶店で告白 | ある日曜(5月中下旬頃) | 5月20日(日) |
〈氷菓〉入手 | 期末試験明け(7月中下旬頃) | 中間試験明け(6月頭) |
検討会 | 夏休みに入った7月末 | 6月24日(日) |
本人から話を聞く | その翌日(7月末) | 6月25日(月) |
姉貴へ近況報告 | 学園祭目前(9月下旬頃) | 台割作成時(6月末) |
伯父の時代といま
原作の作中時間は2000年(『氷菓』の賞受賞および文庫発行は2001年)です。アニメは種々の描写より2012年と思われます。4話で触れられていましたが、伯父さんがいた時代の社会状況などは重要な要素となっているため、この時期は変更することなく1967年のままです。そのため原作では33年前、アニメでは45年前と呼んでいます。
12年の歳月
作中時間が2000年から2012年へと変更されたことにより、文集〈氷菓〉や神高月報なども歴史を積み重ねているようです。たとえば神高月報は年10回刊行される壁新聞であると説明されています。学園祭時の号外などをカウントしなければ12年で120号刊行されることになりますので、原作の壁新聞部のエピソードがあった2000年7月の段階で377号刊行された計算になります。
2012年の神山高校
各日付の曜日は現実世界の2012年と合致します。ただし中間試験の5月28日(火)〜5月31日(金)のみ正しくなく、実際には5月28日(月)〜5月31日(木)が正しい曜日になります。これ以外は適切な曜日であるため、アニメスタッフのミスか、作中でのミスプリントという設定でなければおかしくなります。また、5月4日に本が借りられ美術の授業が行われていますが、この日はGW中のみどりの日です。さすがに進学校であっても(まだ春ですし)休みだと考えるのが妥当だと思いますので、設定のミスかと。
教室の変更
古典部部室が地学講義室から地学準備室になるなど、いくつか変更されました。鍵を借りるシーンを見ると、地学講義室自体は存在するようです。確かに部室としては準備室の方が狭く、ごちゃごちゃし、半プライベートスペースとなる部室として適してはいるかと想います。
一方で、“地学講義室”は廊下のどん詰りで角部屋(『クドリャフカの順番』p.38)であり、“生物講義室”は真下(『氷菓』p.97)です。アニメの“地学準備室”や“生物準備室”は階段のすぐ横の教室であり、角部屋ではありません。ですので、教室の位置構造には変化はなく、部室の割り当てが変更されたと考えるのが妥当だと思います。それにより、壁新聞部の赤外線センサを教室のすぐそばにしか仕掛けることができなくなってしまいました。
〈氷菓〉発掘および検討会の時期
アニメ3話のエピソードは原作では期末試験後(7月中下旬)の話であり、夏休み1週間前、カンヤ祭2ヶ月半前にあたります。一方アニメでは5月末から6月頭の中間試験後に変更されました。また、検討会は夏休み入った7月末からアニメでは紫陽花の咲く芒種(例年6月6日ごろ)のころとなっています。休日ですので、6月9日(土)あたりが該当しますプリシュティナからの電話を取るとき、時計に「6/24 SUN」と表示されているのがかろうじて見て取れます。翌日えるは「昨日は」と言っているため、検討会は6月24日となります。
確かに原作では5月下旬から7月中旬までのことは特に描かれておらず、『氷菓』とは別の短編「大罪を犯す」があるのみです。これは意図して変更したものなのでしょうか……。わたし、気になります!(ドヤァ
心情について
アニメの方は、(最終的にどんな風に落ち着かせるかわかりませんが)恋愛的な心情を抱きつつあるような描写が、より強く描かれていると感じました。原作は多少見え隠れしてますが、淡々としてもいますから。
それは置いといて、アニメ4話後半で奉太郎は謎解きを一度投げかけますが、えるの部屋を覗いたことによって本腰を入れて推理しようとします。しかし5話冒頭では「灰色に飽き、薔薇色を羨んだからかも」とあります。原作通り、検討会の最中から「灰色に飽きて」推理した方が心情的に矛盾しません。にも関わらず、えるの部屋の描写を入れたのはなぜなんでしょうか。わたし(ry